散文

昔の話『ノビノビやること』

TV特番

私のお爺ちゃん・お父さん。このどちらも剣道をやっていたのです。

まぁまぁの強さだったらしい。

僕が大学生だった時の、とある日。

僕は居間でゴロ寝しながらTVを見ていた。20時ごろのゴールデンタイムだ

お父さんは初孫をあやしながら一緒にTVを見ていた。

この時のTV番組はスポーツバラエティ

【芸能人vsスポーツマン No. 1決定戦‼︎】

と言うような番組だった。

次に対戦するスポーツは

『剣道』

女子全日本チャンピオン vs 芸能人チーム剣道経験者3人

ルールは、一人づつ戦って3本先取

芸能人チームは誰かが1本でも取れたら勝ち

チャンピオンは三連戦で全員に勝たなければならない

こういう試合だった。

試合はスタジオで生放送で行うのだが

その前にVTRが流れる

ナレーション『芸能人チームは、3ヶ月前から集合し特訓してきた』

そして芸能人のインタビューシーン

芸能人1『やってやりますよ‼︎特訓してきました。前回のようにはなりません。絶対負けません‼︎』

芸能人2『絶対、負けたくないっス。』

これを聞いて、どうやらこの試合は2回目らしい。

事前のVTRとBGMで番組を盛り上げる演出っ‼︎

そして、スタジオのLive映像に戻ってくる。

いよいよ、試合開始だっ‼︎

一人目が前に出て、蹲居する

審判の声が響く

『はじめっ‼︎』

あっ、これはもう

『きぇぇぇぇーーーーーいぃ‼︎』

王者・挑戦者ともに立ち上がり、気合いを発声する。

立ち上がった瞬間だ。開始0.5秒だ

本当に立ち上がっただけ

それを観たお父さんが言ったことは

『あっ‼︎もう勝てんわ〜』

である。

まずは結果だけ言おう。芸能人チームのストレート負けだった

お父さんの言った通り

芸能人は一本も取れなかった。。

なんで分かったん?

私は剣道をやっていないので、よくわからん

当然、父の『もう勝てんわ宣言』というか予言。

これを不思議に思った僕は、芸能人がボコボコに叩かれている映像を見ながら

父に聞いてみることにした。

負けたくない。は勝ちたいんじゃないんだぞ

俺『なんで、もう勝てないって分かったの?と言うか、そう判断したの?』

父『だって、ゼッタイ負けないぞ‼︎って剣道してるもん』

俺『それは、ダメなことなの?』

父『負けたくないーーっ‼︎って戦ってるんだよ』

俺『それはわかるよ。どゆこと?』

父『あのね。負けたくないの、、勝ちたいんじゃないのよ。負けたくないの。。

どう言うことかわかる?、、、つまり、サイアク引き分けでもいいの。負けてないから』

俺『な・る・ほ・ど‼︎』

俺『つまりプラスを得る思考ではなく、マイナスを回避する思考だと言うことなんだね。それが立ち上がりの声や挙動に現れていると言うことなんだね』

父『そうだね。観てみな』

父『ほら、ゼッタイ負けたくないから。チャンスかもしれないのに踏み込んでいかないだろ?』

俺「すまぬ。剣道やってないからチャンスかもしれないのがイマイチわからん」

父『どんなに凄いチャンピオンだって、攻める時には打たれる可能性はあるんだよ。だって攻撃してるんだから。。』

俺「なるほど」

それならば、、、

俺「負けたくないってのが良くないという事は、分かったよ」

俺「それならさぁ、『ゼッタイ勝つぞ』なら良いってこと?」

父『う〜ん。。。負けたくない、よりはマシかなぁ』

父『ゼッタイ勝つぞ、もそんなに良いわけではない。そもそも負ける気で試合する奴なんていないんだから』

父『勝つぞーっ‼︎と思って、無謀なことしても意味ないからなぁ』

ほなどないせいっちゅーねん

そうして【負けたくない】も【勝ちたい】もイマイチであるという結論が出た

どないせいっちゅーねん

これを僕が言葉に出すと、お父さんの言ったことは

『のびのびやらないかんわ〜。試合そのものを楽しんでやるんだよ。攻める時にせめて、守る時に守って、勝つか負けるかはその時にならないとわからないんだから‼︎』

そして、私は

「確かに、そりゃそうだ」と思ったのである

一つの指針

この出来事は、僕の記憶に残っている

こんな、些細な雑談の一場面なんて次の日に忘れていてもおかしくはない

でも、もうずっと前のことなのに僕は覚えている

ということは、僕にとって重要なことなのだろう。

なので、教えている生徒には「のびのび踊ってらっしゃい」というようにしている。

私の考え方の一つの指針だ。

自分のことになると、意外と忘れていることが多い。

のびのびと楽しんでやること、それはラクしてやることとは全く違う

勘違いする人がいるが間違えないでほしい。